中国東部の江蘇省で、主要道路の近くに住む8歳の少女が肺癌(がん)を患った。中国政府当局によると、大気汚染が原因の患者としては中国全土で最年少で、おそらく世界でもまれな例だという。折しも先月、大気汚染を主要なヒト発癌性物質とする見解を世界保健機関(WHO)が発表したばかりだ。
今回は、アメリカのユタ州プロボにあるブリガムヤング大学の大気汚染専門家C・アーデン・ポープ(C. Arden Pope)氏に話を聞いた。同氏は、大気汚染が人間の健康や生命に及ぼす影響について研究しており、アメリカ連邦政府の大気汚染対策にも貢献している。ポープ氏はまず、「子どもの肺癌は世界的に例がなく、未知の研究領域だ」と現状を述べる。
◆中国国内や世界全体の子どもの肺癌について、どの程度わかっていますか?
率直に言えばゼロです。子どもの肺癌をテーマにした研究は、まず聞いたことがありません。アメリカ癌協会(ACS)の調査でも、子どもは対象外です。この少女は、過去に例をみないほど若い肺癌患者なのです。
注:大気汚染ではなく遺伝に起因する場合は、より年少の症例も存在する。
◆中国の一部の工業地域では、大気汚染が生んだ極小の粒子状物質「PM2.5」のレベルが、WHOの安全水準の40倍以上に達しています。PM2.5はなぜ危険なのでしょうか? またどのように肺癌につながるのでしょうか?
さまざまな発癌性物質が産業汚染によって大気に放出されます。重く大きい粒子は漂う前に地面に落ちます。また、人間が吸い込んでも、呼吸器系が備える“フィルター”によって遮断されます。ところが、PM2.5は非常に細かな粒子で、毛髪の直径よりもはるかに小さいのです。大気中に数週間も漂い続け、人間の肺にも侵入します。そのほとんどが、石炭やガソリン、ディーゼルなどを燃やしたときに生まれ、さまざまな有害物質で構成されています。
◆アメリカ環境保護庁(EPA)は、「1立方メートルあたり年間平均で15マイクログラム以下、1日平均で35マイクログラム以下」というPM2.5の基準を設けています。中国の大気汚染レベルは、アメリカの工業地域と比べてどの程度でしょうか?
中国の方がはるかに深刻です。年間平均で1立方あたり80~100マイクログラムに達する地域も珍しくなく、北京では800~900マイクログラムを記録する日もあります。アメリカでは、数十年前のピッツバーグやロサンゼルスといった最悪のケースでも、年間平均で30マイクログラムを超えたことはありません。現在は、最も汚染が深刻な都市でも20マイクログラムを下回っています。
◆人体への影響だけでなく、経済的影響についても研究されていると聞いています。中国経済が大気汚染によって被るダメージは?
非常に複雑です。中国の経済的繁栄をもたらした産業活動が、同時に健康被害を生んでいることは間違いないでしょう。産業化によるプラスの影響と健康や生産性に対するマイナスの影響は、トレードオフの関係にありますが、十分に研究されているわけではありません。ただし、アメリカの経験から考えれば、大気汚染の抑制が大きなプラスをもたらす結果が◆大気汚染は、ほかにも健康被害を引き起こしますか?
もちろんです。おそらく、最も因果関係が明確な病気は心臓血管系疾患でしょう。大気汚染が進めば進むほど、リスクも高まります。
◆8歳の少女のケースを聞いてどのように感じましたか?
痛ましい限りですね。大量のデータを統計処理する私の研究手法は個々の事例を扱いませんが、今回のように子どもが深刻な病気を患ったという話を聞くたびに胸が痛みます。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131112-00000003-natiogeog-sctch
2013年11月12日火曜日
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