2013年9月9日月曜日

80億人市場に対する意識転換の必要性——新・新興国の実態と日本企業のチャンス

頷かれさせられるところが多い記事ではありますが、何より重要なキーボードは80億という数字です。
人類はまさに地球にとってのガンです!不自然に増殖し過ぎで、地球の資源を食いつくそうとしています。
もはや市場どうこうではなく、これから資源をどのように大事に使っていくかを考えるべきでしょう。
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携帯電話で取引先に送金、インターネットでTV電話、カラフルなエコカーの人気、家庭での太陽光発電。一読すると最先端のライフスタイルかのように思える出来事は、すべて「新興国」と呼ばれる国々で日常的におきている。国内市場が停滞する中、新興国に注目が集まって久しい。それにも関わらず、新興国、とりわけ南アジア以西のインドやアフリカといった市場に対するイメージにはいまだに誤解があるのではないだろうか。日本企業が消費者の購買力や事業リスクを理由に進出を躊躇している間に、これらの市場を巡ってアジア、欧米企業の熾烈な競争が始まっている。本稿では、新興国市場の実態を紹介するとともに、日本企業にとっての事業機会について考えたい。●1.80億の巨大市場〜新興国に対する誤解 2011年に世界の人口は70億人を突破した。国連の予測によると、2030年には80億人に達するという。そして増加人口のうち、実に95%が新興国におけるものである。前号の視点でご紹介したように、ローランド・ベルガーでは、2030年までのGDP成長の70%が新興国、30%が先進国からもたらされると予想している。人口80億人の様変わりした社会において、これまでの「新興国」に対する常識やイメージに縛られていては、グローバルでの激しい競争から取り残されてしまうだろう。 冒頭のストーリーはすべて執筆者が新興国とよばれる国々で実際に目にしてきたことである。ケニアで自営業を営むAさんは銀行口座を持たないが、取引先への送金は携帯で行っている。ラオスに暮らす母親の誕生日を祝うため、中国に働きに出ているBさんはSkypeを使ってバースデーソングを送った。インドネシアでは極度の渋滞が慢性化しており、政府はエコカー政策に力を入れている。計画停電が定期的に行われるインドでは病院や工業団地に自家発電設備が置かれ、多くの家庭にソーラーランタンが配備されている。バングラデシュの市場では多少高くとも無農薬野菜が人気だ。 いわゆる新興国と呼ばれる国々に暮らす消費者の平均年収は日本の30〜60年前の水準である。日本は高度経済成長期に徐々に収入レベルを上げ先進国の仲間入りを果たした。経済発展を支えるかのように技術発展も同時に進んだ。収入が増えるにつれ、人々は家電を購入し、自動車を購入し、コンピューターを手にするようになった。これに対し、新興国では、消費行動や生活様式を効率的にサポートする技術が消費者の収入の成熟を待たずに発展を遂げている。そしてその代償として背負うべき環境意識とともに、グローバル化の恩恵で農村の隅々にまで浸透している。新興国における発展は一足飛びに進んでいるのである。 日本企業は、新興国について遠い将来の市場、自社の顧客ターゲットとなりえない恵まれない人々が暮らす市場と感じているケースが多いのではないだろうか。新興国はリスクが大きく、支援の対象となるべき人々が存在するという側面も紛れもない事実だ。しかし、その一方で明日、来年の発展を信じて積極的に消費活動を行い、テクノロジーを使いこなす、たくましい消費者がいるというのも、また、ゆるぎない事実である。 イメージの中の消費者像を通じて真のニーズを捉えないままに、事業展開の判断を行うことにより、これまで築き上げてきた日本企業の強みが宝の持ち腐れになってしまいかねない。誤解(1)新興国の消費者には購買力がない 新興国に対するひとつめの大きな誤解は、購買力に関するものである。日本企業の多くが消費者の購買力を過小評価し、ターゲットを富裕層に絞っているのではないだろうか。例えば、年収80万円の消費者は自動車を購入するであろうか? また、年収30万円の家族は子どもを学習塾に通わせるであろうか? 収入の見込みがない人は携帯電話を購入するであろうか? 答えはすべて正である。 新興国消費者の購買行動は、われわれの想定とは大きく異なっている。日本で暮らす場合、生涯における収入にはある程度の目処がたっている。住居費、食費、光熱費など生活に必要な一定の額を除いて貯蓄や趣味の購入に割り当てていくと考えるのではないだろうか。しかし、国の発展に伴い収入が右肩上がりに増えていくと信じる新興国の消費者は将来への投資をより重視する。 自動車を持つことで、自ら市場に野菜を売りに行けるようになり、よりよい稼ぎが得られるのであれば、農家は土地を売って得た資金を頭金にしてでも、長期ローンを組んで自動車を購入する。教育を得ることで子どもの将来が切り開けるのであれば、製糸業を営む大家族は、6畳一間で切り詰めて生活していても、長男を私立の学校に通わせる。難民キャンプに暮していても、遠く離れた家族とコミュニケーションをとるために、携帯電話は必須である。 年収情報をベースに新興国の消費者の購買力を測るのは大変危険であると考える。アフリカの藁葺きの家の床にもテレビがおいてあり、アジアの高床式の家の下にもバイクや自動車が駐車されている。新興国の消費者は年収に関わらず、将来のよりよい暮らしを実現するものに対して支出する。選択と集中を徹底し、ファイナンスを活用することで、収入と大差のない価格帯の商品であっても、いとわずに購入しているのである。誤解(2)新興国ではブランドを重視しない 次にブランド嗜好に関する誤解があげられる。新興国消費者にとって最も重要なのは低価格だと考えていないだろうか。もちろん手に届く価格であることは重要だが、その一方で新興国の消費者は非常にブランドセンシティブだ。高価な買い物になるほど、多少高くとも安心できるブランドを好む傾向がある。家電や自動車、携帯などは、一世一代の買い物である。それゆえに長く使える品質であるか、見栄えのするイメージがあるかなど、ブランドを重視するのである。 南アフリカで行われた調査では、自動車を複数台所有する白人層が中国製や韓国製などの低価格のブランドを好むのに対し、黒人層は多少割高であってもVWやトヨタなど欧米や日本のブランドを好むことが分かった。壊れやすい中国車を購入するのであれば、将来のメンテナンスコストを考えると、中古でも日本車を購入するほうが安心できる。初めての自動車の購入なので、友達に自慢できる欧米の自動車が欲しいといった具合だ。後に詳しく取上げるが、現代自動車ではブランド力をあげる取組を新興国で積極的に展開している誤解(3)新興国では最先端の技術は強みにならない 3つめは、テクノロジーに対する誤解である。2011年の「アラブの春」では、SNSを通じた市民の情報交換が話題になった。2012の3月にはFacebookの利用者数が全世界で9億人を突破した。新興国の消費者は、パソコンよりもノートパソコン、ノートパソコンよりもスマートフォンといったように、一足飛びに最先端の技術を備えた製品を購入する傾向がある。携帯電話の普及率は、先進国において90%を超え横ばいなのに対し、新興国全体では過去年4年で39%(2007年)から78%(2011年)に急成長を遂げている。固定電話のインフラが整うのを持つことなく携帯電話の普及が進んだため、普及率が100%を超える国々(中東、東欧)まで出てきている。 例えばアフリカの農民は、携帯電話を使ってGoogleが提供するSNSサービスで気象情報や野菜の市場価格などの情報収集を行い、ボーダフォンが提供する小口送金サービス(後章参照)でビジネスを行う。ノキアはアフリカ独自のニーズを踏まえ、ローエンドの携帯に、停電のための懐中電灯機能と家族で携帯を共有するための複数アドレス帳機能をとりつけた。どんな荒野においても電源コンセントがあり、無線鉄塔が次々と建設されている。技術を伴わない低価格だけが売りの製品で参入しようとすると販売機会を逃してしまう恐れすらある。誤解(4)新興国の消費者はサービスよりもモノを重視する これまで新興国というと、低賃金を活かして工場を誘致する製造業のための市場というイメージがあったかもしれない。日本が辿ってきたのと同じように、新興国でサービス産業が立ち上がるのはまだ先と考えるかもしれない。しかし、われわれの想像を超えるレベルで、新興国市場におけるサービス化は進展している。消費者はサービスにこそ、支出を惜しまない。 例えば、自動車故障の多いインドネシアにおいては、3年間のメーカー保証に加え、多くのディーラーで5年間の緊急ロードサービスが付加され販売されている。ザンビアのパソコンショップでは、出張メンテナンスサービスもセットで販売されている。サポートサービスによって売上が1割増加したという例もある。公文式はアフリカ、アジアなど全世界47カ国に学習塾を展開し、今年3月時点で学習者数443万人を突破した。●2.新興国で活躍する外資企業 日本企業がリスクや経験の無さを理由に後回しにしてきた新興国市場において現在健闘しているのは、アジア・欧 州 企 業である。中国やインド企業はチャンスがあれば、人員を即座に現地に送り込み、欧州企業は新興国との付き合いが長くM&Aに長けている。 以下では、この10年で新興国において市場を形成してきた欧州、アジア企業の事例を紹介したい。いずれの企業も、消費者に手の届く価格帯を意識しながらも、最先端の技術力や安心のブランド構築、かゆいところに手の届くサービス提供を通じて急激な成長を遂げている。事例(1)ボーダフォン(サファリコム)、M-PESA サファリコムは、アフリカ・ケニア最大の携帯電話会社である。ボーダフォンとケニア政府が共同出資し設立したサファリコムの売上は昨年度で約1000億円。加入者は1810万人を超え、実にケニアの人口の半数程度がサファリコムのサービスを利用している計算になる。サファリで暮らすマサイもスマートフォンを手にし、国立公園の真ん中にある充電施設で定期的に充電を行っている。 携帯電話本体は、最も安価な機種であれば3000円程度、プリペイド式のカードは5円から入手可能である。携帯代を節約するためにワン切りを活用する消費者向けにコールバック専用の無償SNSサービスも実施している。ここまで聞いただけでは、通信費でどのように収益化するのかと疑問に思うかもしれない。 サファリコムの収益を支えているのは、M-PESAという電子マネー送金システムである。Mはモバイル、PESAはスワヒリ語で金を意味する。利用者は取次店で携帯電話に現金をチャージし、受取人にSMSを送ることで送金ができるシステムだ。受取人は、サファリコムの取次店に行き本人確認を行うことで簡単にお金を引き出すことができる。銀行口座を持たないユーザーや、また現金を持ち歩くことに不安の多いユーザーの間で瞬く間に普及し、現在ではサファリコムユーザーの約8割がM-PESAを利用している。M-PESAはスラムを含むケニア全土に2万4000を越える取次店を展開。一般家屋の外壁に希望に応じてコーポレートカラーの緑のペイントを無償で施し、ブランド認知にもつとめている。 サファリコムの成長を牽引してきたのは、南アフリカ出身のエンジニア、マイケル・ジョセフCEO(現取締役)だ。1.7万人だった加盟者数をわずか12年の間で1000倍にまで成長させた。現地ニーズに精通した40人のケニア人ITエンジニア部隊が日々アイディアを生み出し、意思決定権をCEOに集中する方式によってスピード感ある実行を実現。変化の激しい新興国市場において売上を拡大させてきた。10年余りで一企業の施策により国の携帯普及率を劇的に変化させたジョセフ氏は語る。 「新興国市場はタフだ。しかし挑戦する価値はある。」事例(2)現代自動車、KOLAO 現代自動車の全販売台数600万台にしめる母国の比率は1割強に過ぎない。一方で、仕向け地別輸出台数を見てみると、米国・欧州を大きく引き離し、アフリカや南米、アジアといった新興国の比率が7割強を占める(2010年度)。現代自動車もサファリコム同様、新興国において、市場ニーズを捉えた商品を投入し、品質とデザイン性を兼ね備えた低価格モデル、積極的な広告宣伝、地方の開拓により急成長を遂げてきた。 例えば、インドにおいては、40〜80万円台の主戦場に4モデルを集中投入し、市場環境や嗜好など現地ニーズを取り入れた改良を実施した。熱帯気候や未舗装の道路環境に応じて、エンジン冷却機能やエアコン性能の強化、ブレーキ機能の強化、サスペンションの補強、車体防水等を改善。また、ターバン用に天井を高くし、クラクションを頻繁に鳴らす運転手に応じてスイッチを多めに配した。欧州でも戦えるデザインにこだわり、ブランド露出の高いスポーツマーケティングに注力。ボリウッドスターをブランドイメージに起用し、知名度アップを図った。当初より地方に暮らす1億世帯をターゲットとして意識し、ディーラー網の整備や、地方銀行との提携によるオートローンなどを強化してきた。メーカーとしては異例の5年間/10万キロメートルの長期保証サービスをつけることで、リピート顧客育成にも抜かりがない。 また、先行者利益の取り込みを掲げる現代自動車は、BRICsの先の国々においても、すでに事業を展開している。 例えば、ラオスにおいては、現代自動車は、パートナーである韓国のKOLAOグループ傘下のもと、事業を展開している。KO(コリア)とLAO(ラオス)という意味を持つKOLAOグループは、官民連携した一大事業として成長を続け、今では国全体のGDPの5%を占めるまでになっている。 1997年、29歳で韓国の大企業を飛び出しアジアに乗り出したKOLAO創始者のオ・セヨン会長は、中古車5台からわずか十数年で現代自動車をラオスNo.1の自動車企業に育て上げた。当時まだ自動車がわずかしか走っていなかったラオスにおいて、韓国と同じ左ハンドルの道路事情があることに着目。韓国から中古車を仕入れ、事業を開始した。政府の関税特権を得て価格競争力を手にし、自動車金融により販売を促進、アフターサービスの概念も根付かせた。今では、自動車学校から車検制度までをも一企業として実施、中古車禁止例を逆手に燃費のよい新車販売を促進する、一大国民車メーカーとなっている。 しかし、KOLAOの事業は一筋縄で成長してきたわけではない。オ・セヨン会 長はかつて、ベトナムで現地パートナーに裏切られ、ASEANの加盟にともなう中古車輸入禁止措置によって倒産に追い込まれた経験を持つ。それでもあきらめずに、ラオスでゼロから道端に座って市場調査を行った彼は言う。 「失敗から学ぶことのできない経営者は水際の子どもと一緒です。周りの忠告を聞こうともせず、情勢が変わっているということを見ようとしないためです。」●3.日本企業にチャンスはあるか〜結びにかえて アフリカの政府関係者の知人に日本の持つイメージを尋ねたところ「尊敬するが、重要でない」との回答が返ってきたことがある。いつまでも事前調査ばかりで意思決定を行わないというのだ。それに対して、アジアや欧米の企業はビジネスチャンスのあるところには時期を逃さず、まとまった投資を行い、きっちりと収益を持っていく、という。その一方で、日本の卓越した技術や品質に裏打ちされた製品は新興国において、いまだ憧れの対象となっている。家電などは中国・韓国勢に置き換わりつつあるものの、自動車やカメラなどは日本の技術力に対する信頼が高く、中古でも日本製という意識が強い。日本人の謙虚な姿勢、仕事への取組みから、日本に敬意をいだいているケースも多く、就職先として日本企業の人気も根強い。東日本大震災にあたって、新興国を含む163カ国から支援の申し出があったことは記憶に新しい。 日本企業には、かつて経済成長期に築き上げてきた「Made in Japan」ブランドという大きな資産がある。新興国においてこのブランドイメージは有効である。ただし、現状のままでは、農村の奥まで商流をめぐらせる中国、インド、欧米企業の製品で育っていくであろう世代80億人が、日本ブランドに対し、近い将来、今と同じイメージを持ち続けているかどうかは定かでない。 日本が新興国に進出するタイミングは「今」を逃してはないように考える。資産によって生み出されたイメージではなく、日本が今も実際に持ち続ける真の技術力、サービス精神は、80億人の市場をより豊かにするために貢献することだろう。そして、何より次の10年、20年も続く日本の活力につながると信じて止まない

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